初心者でも見えてくる!「戦国の城」の見方
『図解 戦国の城がいちばんよくわかる本』の著者であり、現在放送中の大河ドラマ『真田丸』の戦国軍事考証を担当する西股総生さんが初心者はもちろん「城プロ」も唸る、戦国の城の見方を伝授します
遺構を見るコツは「新発見」しないこと!?
土でできた戦国の城は、普通の人が見ればただの山だが、城マニアにはワンダーランドだ。つまり、普通の人にはただの地面や藪にしか見えないものが、「城を見る目」が備わっている人には、土塁や虎口に見えているわけだ。
「城を見る目」を養うには、何より場数をふむことが大切だ。とはいえ、闇雲
に場数だけこなしていても、「見る目」を養うことはできない。
一番よいのは、自分より「見る目」がこえている人といっしょに歩くことだが、それは「見るコツ」を学べるからだ。では、城の遺構を「見るコツ」とは、どんなものだろうか。
【城を立体構造物として見ること】
城を歩く時は、ガイドマップや縄張り図を見ながらということが多いが、マップや図は二次元だ。実際の城は三次元で、堀には深さが、土塁や切岸(壁)には高さがある。
たとえば、幅10メートルの空堀といえば、戦国の城では標準的なサイズだ。でも、同じ10メートル幅の堀でも、両岸の高さが同じくらいの場合と、高低差が大きい場合とでは、立体構造物としてのボリューム感がまるで違う。当然、防禦力にも差が出てくる。
できのよい縄張り図なら、このボリューム感をちゃんと読みとれるように
描いてある。ただ、二次元の図からボリューム感を読みとれるようになるには、かなりの訓練が必要だ。だから、まずは現地に立って、立体構造物としてのボリューム感をありのままにつかむようにした方がよい。
枡形虎口も、現地に立って地面だけ見ていると、道がカーブしているようにしか見えない。でも、立体として見ると、道を囲むように土塁や切岸(壁)が立ち上がっていて、83ページのイラストのように見える。つまり、地面が平面と立面の組み合わせに見えるわけだ。
【土塁・切岸(壁)は崩れ、堀は埋まっていることを知る】
一見よく残っている城でも、なにせ土の構造物。しかも、使われなくなってから400〜500年はたっている。廃城になったあとで、曲輪の中を畑としてたがやしたり、家を建てたりするために、土塁を崩して堀を埋めてしまうことだってある。
実際、発掘調査を見ていると、空堀は1・5〜2メートルくらいは埋まっているのが普通だ。今、見ている堀底が平らだから箱堀だ、などと考えたら大間違いなのである。たいがいの空堀は、今より2メートル深ければ、ちゃんと薬研堀になる。
当然、土塁は今よりもう少し高かったし、エッジがシャープだった。しかも、土塁が高く堀が深いとなれば、斜面はもっとずっと急角度で立ち上がっていたことになる。
【攻める側と守る側、両方の視点で見る】
城好きさんは、城を見れば攻めたくなるのが人情。おおっ、この堀切は越えられそうもない。あっ、この土橋は横矢がバッチリかかっている──といった具合に、討ち死に気分を何度も味わいながら、主郭まで攻め登るのは楽しい。
でも、そうやって主郭を攻略したら、今度は守る側の立場で城をじっくり見直してみよう。攻める視点で見ていた時にはわからなかった、縄張りのいろいろな工夫がわかってくるはずだ。
なぜなら、城は守る立場で設計されているからだ。攻める側と守る側、両方の視点で見れば、城は二倍楽しいのだ。
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